私は映画大好き司法書士です。お仕事とは全く関係のない話の2回目です。
2002年~2003年、私はイギリスに滞在していました。最初はスコットランドのエディンバラに住み、次にロンドンに引っ越しました。エディンバラからロンドンに引っ越しする前に、ヨーロッパを3カ月間一人旅していました。
オーストリアのとある町のユースホステルに宿泊していた時、とても明るい日本人の女の子に出会いました。彼女は「ロンドンに行くなら、レスタースクエアにあるプリンスチャールズシネマで”Sing-a Long-a(一緒に歌って踊ろう)”という、観客参加型仮装イベントに行くべき」と言ったのです。中でも「サウンドオブミュージック」の回が超オススメだと。
旅を終えてロンドンに戻った時、早速プリンスチャールズシネマに行きました。プリンスチャールズシネマは新作も上映しますが、旧作も上映する映画館です(今でも健在)。例えば、当時も『デリカテッセン(1991)』や『フェリスはある朝突然に(1987)』とかを普通に上映していました。ロンドンのど真ん中で。
その仮装大会つきシネマイベントで観たのがこの作品です。
ロンドンに行く機会があって映画が好きな方は、このとっても独特な世界が味わえる”Sing-a Long-a”イベントをオススメします。今でもこの作品や『ダーティダンシング(1987)』もこのイベントでやっているようです(下記リンク参照)。映画の上映前に観客の仮装コンテストがあり、爆笑です。
The Prince Charles Cinema
https://princecharlecinema.com/
あらすじと基本情報
若いカップルが道に迷い、立ち寄った古城。そこでは、謎のパーティが繰り広げられていた。気味の悪い執事に連れられて大広間に行くと、ゲスト達が宴の真っ最中。皆奇抜な恰好で踊り狂っている。そこへ登場したのは古城の主人であるフランクン・フルター博士。真っ黒なボンデージ衣装に身を包ん自信たっぷりに登場し、ゲスト達のボルテージも最高潮。奇妙な歌で踊る狂う異様な光景に、若い二人は一刻も早く立ち去りたいと願うも・・・。
原題 | The Rocky Horror Picture Show |
公開 | 1976 |
ジャンル | ミュージカル |
監督 | ジム・シャーマン |
キャスト | ティム・カリー、リチャード・オブライエン スーザン・サランドン、ミートローフ |
Amazon Prime Video | 配信 | 〇 |
U-NEXT | 配信 | × |
YouTube | 配信 | 〇 |
TSUTAYA DISCAS | 宅配DVDレンタル | ○ |
ジャンルはコメディ
『ロッキー・ホラー・ショー/The Rocky Horror Picture Show』は、映画史上最も独創的で斬新な作品の一つ。カルト映画ファンの心を鷲掴みして離さない。この作品は1975年にリリースされたが、未だにそのカルト的な魅力が色褪せることはない。
元々舞台の作品の映画化。タイトルにホラーが含まれているが、全くホラーではない(主人公の博士が創った人造人間の名前が「ロッキーホラー」という名前)。ジャンルはSFミュージカルコメディ、しかし王道のコメディではなくサブカル作品である。
と言っても、『死霊の盆踊り/Orgy of the Dead(1965)』ほどディープなサブカル的世界観でもない。たいへん視聴者にやさしい、見やすいサブカル、サブカルの入門編のような作品だと思う。ディープ過ぎないさじ加減が絶妙で好きである。その辺りの行き過ぎないサブカル度合いも成功した秘訣であろう。
しかし、地上波のゴールデンタイムで観ることができるようなドラマや映画の世界観とは全く異なる。世界観が理解できない人にとっては、何が面白いのかサッパリとなってしまう作品だろう。ナンセンスやユーモアが少しでも好きなら、是非トライしてほしい。
因みに、『死霊の盆踊り/Orgy of the Dead』は、映画ファン御用達のサイト「みんなのシネマ」で、常にワーストランキング1位の作品である(平均点0.76点/10点)。原作・脚本は、エド・ウッド。ジョニー・デップ主演で映画化もされた“史上最低の映画監督”。作った作品が全て興行的に失敗したという。私も『死霊の盆踊り/Orgy of the Dead』を途中まで観たが、退屈で気が狂いそうになった。
ナンセンスなロックミュージカルナンバー
この作品のミュージカルナンバーは優れている。サウンドトラックは、そのカルト的なステータスを支える重要な要素の一つである。キャッチーでメロディアスな楽曲は、耳に残りやすく、観客を映画の世界に引き込む。特に「Time Warp」や「Touch-a, Touch-a, Touch-a, Touch Me」などの楽曲は、観客が一緒に歌い踊りたくなるような魅力を持っている。
曲はどれも大いにふざけている。冒頭から流れる「SF映画二本立て|Science Fiction, Double Feature」というテーマソングは、人を喰ったタイトルでそれだけでも爆笑してしまった。
中盤、宴に乱入した太っちょのロッックンロールボーイ・ミート・ローフ(役名はエディ)が「Hot Patootie Bless My Soul Scene」を熱唱するシーンが大好きである。彼はジーパンがパンパンになるほどしっかり太っていてるけれども、バイクに乗ってキメにキメてくる。ルックスは古いテイストの不良少年。彼は本業が歌手であるので抜群に歌が上手い。ハイトーンな歌声が心地よい。しかし、エディは、エディの歌唱とダンスがみんなをくぎ付けにさせたので、全く快く思わない博士(ティム・カリー)にオノでアッサリ殺されてしまうのだった。
エディを殺害した後の博士に大注目である。エディを惨殺した後、皆の前に帰ってきて、恥ずかしそうにする博士の演技がおかしすぎて爆笑である。何でここで、新妻が初めての料理に失敗したみたな仕草をするんだろう。
ティム・カリーのおばさんヘア
主人公ティム・カリーが未だにミック・ジャガーと被ってしまうのは、私だけだろうか。
若い頃のミック・ジャガーは今よりももっとギョロ目で、タラコ唇で大きな口だったし、冒頭の唇だけ出てくるシーンもローリングストーンズと勝手に重なっていた。この作品をはっきりと観るまで、何となくミック・ジャガーが主人公を演じている作品と思い込んでいた。
ティム・カリーは他の作品にも沢山出演しているけれども(スティーブン・キング「IT/イット(1990年のTVドラマ)」の怪物ピエロ・ペニーワイズ)、やっぱりこの作品が一番のハマリ役だった。ティム・カリー演じるフランクン・フルター博士は、まさに個性の塊。彼のキャラクターはエキセントリックでありながらも魅力的で、その演技は驚くほどの才能を示している。
おばさんパーマなのに化粧映え抜群で、黒のセクシーボンデージファッションでキメている。要所要所でキメ顏にキメポーズをして、ギャラリーをウットリさせていると思いきや、人を小馬鹿にしたようなおちょぼ口をしたりして、サイコーである。
博士の登場シーンは、まさに圧倒的な存在感。彼の傲慢で挑発的な笑みは、観客を引き込み、彼の狂気に魅了する。特に彼がソロで歌う「Sweet Transvestite」のシーンでは、彼の魅力が最大限に発揮され、観客は彼の虜になる。本作におけるティム・カリーの演技力は、博士のキャラクターに深みを与え、強烈な印象を残した。
共演者も芸達者
スーザン・サランドンは当時20歳くらいだったのではないか。いつも思うけれども、若くしてこういうハチャメチャで理解に苦しむ世界観の作品によく出演することができるなと感心する。私自身が20歳前後でこんな前衛的な作品のオファーが来たとして、出演を快諾できる程理解力があっただろうか。
スーザン・サランドンは「何か面白そうだったから」とか言ってオファーを引き受けたのかもしれないが、そういう軽さも私には備わっていなかったと思う。だから、今やカルトとして価値が高められているから良いものの、当時はそれこそカルトだったので、周囲の理解もそれ程ない状況でオファーを引き受けたり、心地よく制作に関与するスタッフ等、本当に頭が柔軟で素晴らしいと思う。どうしても価値が固まったものを鑑賞しがちだから。
実は、薄気味悪い執事役のリチャード・オブライエンが本作の原案を作り、脚本を手掛けた作品である。センターを剃っていて左右がロングヘアという奇抜なヘアスタイル。背中を曲げて両手を上下に上げ下げしてシャウトして歌うシーンはフランクン・フルター博士が登場する前の前座としてサイコーに盛り上がる。
ロンドンのプリンス・チャールズ・シネマ
前述のとおり、2003年、ロンドンのレスタースクエアにある、「プリンス・チャールズ・シネマ」というふざけた名前の映画館でこの作品を鑑賞した。チャールズ皇太子(当時)の顔写真が3つタテに並んで、アンディ・ウォーホルのマリリン・モンローみたいに、カラーリングされている看板が目印だった。
レスタースクエアはロンドンのど真ん中にある。映画館のメッカでもあり、近くの「オデオンレスタースクエア」ではハリウッドの最新作プレミア上映会が頻繁に行われる。映画館前の広場ではトム・クルーズ等のハリウッドの大スターが登場してファンが押し寄せる光景が多く見られる。
そんな光り輝くキラキラした大映画館から少し外れて一本道を入った所にあるのが「プリンス・チャールズ・シネマ」。建物も少し古い。ロケーションも自らのポジションと役割をきちんとわきまえていて絶妙である。
この作品は、同映画館が定期的に行っている恒例イベント“Sing-a-Long-a(一緒に歌って踊って)”シリーズの一つの上映作品だった。他の一般の映画の鑑賞チケットは4ポンド(当時のレートで約800円)くらいで鑑賞できるのに(時間帯によって金額が異なり、夜の時間帯になると高額になる)、このシリーズは24ポンド(当時のレートで約4800円)もした。というのも小道具付きだからである。小道具は何に使用するかというと、劇中に映画のキャラクターと一緒に歌って踊る、そしてパフォーマンスをする為である。
この映画の小道具は、「ゴム手袋」。ティム・カリーがスーザン・サランドンに向かって“アン・・・ティシ・・・ペイション!”と言うシーンでのティム・カリーの仕草「ゴム手袋を噛みながら引っ張る」を「お客さんも一緒に手袋をはめて口で引っ張りましょう!」という意図で置かれていた小道具である(小道具は映画館の1席1席に置かれている)。
24ポンドもするのに、お客さんは満席である。
映画が上映される前、恒例の仮装コンテストがある。劇中の人物に仮装して来ているお客さんが沢山いるのである。司会者もきちんといて、仮装者は舞台にあがって一列に並べられ、優勝者を決めてから上映に入るという構成だった。
日本でも仮装コンテスト形式のロッキー・ホラー・ショーを上映していたようであるが、規模感と抜群の楽しさでプリンス・チャールズ・シネマの方に軍配が上がるであろう。
10年以上前、ローリー見たさに古田新太が博士を演じる『ロッキー・ホラー・ショー』ミュージカルを大阪で観た。男闘呼組の岡本健一が禿げロングの執事を演じていたのが大変興味深かった。個人的には、ローリー版の博士が見たかった(ローリーも博士を演じたことがある)。
