先日、敷地権付き区分建物(マンション)の相続登記をご依頼いただきました。
登記を見ると、「大阪府住宅供給公社」による約50年前の買戻特約が設定されていました。昔の公的分譲住宅ではよくある条項で、設定当時は「一定期間内なら公社が買い戻せる」という条件付きの売買契約がされていたのです。
幸い、「大阪府住宅供給公社」が買戻権を行使できる期間はとうに過ぎており、今では効力もなくなっています。
さらに、令和5年の法改正により、買戻期間が10年経過している買戻特約登記に関しては、相手方の承諾書などを取らなくても、登記権利者が単独で抹消登記ができるようになりました。
以前は「抹消したくても相手がいない」「買戻権者の機関が廃止された」といった理由で手続きが非常に進めにくかったのですが、今は実務上ずいぶんスムーズになりました。今回もその制度に助けられ、建物の買戻特約の抹消自体は比較的スムーズでした。
ところが、建物部分の買戻権のみを抹消申請したところ、法務局から「“敷地権化される前の”土地の方にも買戻権が残っています」と指摘がありました。
これを指摘してくれないと、どうなったことか。法務局の方には感謝です。
調べてみると、土地が敷地権化される前の段階、つまりマンション建築前の土地の持分割合にも、同じ買戻特約が設定されていました。その後、敷地権になって一体化した現在であっても、その「昔の土地の権利関係」がそのまま残っている状態でした。
なお、敷地権化されているマンションは全てこのような状態ではなく、このマンションは偶然このような状態であったということなので、ケースバイケースです。なので、1件1件確認していく必要があります。
最終的には、土地の買戻特約の抹消も申請し無事に登記を完了することができました。
今後は、敷地権化されているマンションに買戻特約が設定されている場合は、必ず「敷地権化される前の土地にも買戻特約が設定されていないかどうか」の確認をするようにしないといけないということを学びました。
因みに、「敷地権付き区分建物」とは、一棟の建物を構造上区分して所有する区分所有建物において、その建物の専有部分と一体となって土地の利用権(敷地権)が登記されており、専有部分の所有者が土地の利用権も同時に持つことが法律で定められている建物のことで、専有部分と土地が一体で扱われるため、土地と建物を別々に売却することはできません。
登記を確認すると、敷地権化されている区分建物は以下のとおり、「敷地権の目的である土地の表示」「敷地権の表示」という欄が設けられています。

法務省「全部事項証明書」見本
最近、「相続登記は簡単だから自分でできる」「専門家に頼むのはもったいない」という意見を見かけることが増えました。
確かに、書類を集めれば申請自体は誰でもできます。
しかし、登記簿には何十年も前の権利関係が生きている場合があり、それを読み解くのは想像以上に複雑です。
今回のように、一般の方は、古い買戻特約が「敷地権化される前の土地に残っている」ことをどうやって見つけるのだろうかと思いました。
登記は、登記簿謄本に表れている登記だけを登記すればよいという問題ではありません。
相続登記するべき不動産が漏れていると、数年後数十年後にその不動産を売却するのに相続登記が漏れていたという事態になりかねません。そして、その頃になると相続人が次の世代、次の次の世代に移って、会ったこともない人に署名捺印をもらわないと手続きが進められない事態になることもありますので注意が必要です。




